1パリで源氏物語その1
 2014年3月21日と22日、フランス国立東洋言語文化大学(イナルコ)とパリ・ディドロ大学を会場として、パリ・国際シンポジウム「詩歌が語る源氏物語」が開催され、私もパネリストおよびディスカッションのメンバーとして参加しました。2003年から、イナルコとパリ第7大学の教員が共同で源氏物語のフランス語訳をしています。イナルコでは、毎年、源氏物語を中心としたワークショップや対論を行い、年に一度シンポジウムを開催してきました。国際シンポジウムは3度目で、2008年と2011年のシンポジウムを基にした論集2冊に、詳しい経緯と活動が報告されています。この活動に参加される方々が、国内外の著名な研究者であることは言うまでもありませんが、国内からは首都圏の大学の教員・研究者が中心で、関西からの参加は私が初めてではないかと思います。
 詳細はColloqueGenjiProgrammeMars14.pdf をご覧いただくとして、簡単に概要を述べます。フランスの翻訳グループは、作業の中で源氏物語の和歌・和歌的表現の重要性に注目し、今年のシンポジウムのテーマを「源氏物語と詩歌」としました。私が関わるようになったのは4年前、主催の中心となるイナルコ教授の寺田澄江さんと奈良公園内の旅館でお会いして以来のことです。フランスで和歌を研究してこられた寺田さんと、源氏物語と和歌との関係を研究してきた私とは、いつも研究について語り合いますが、お互いが案内した旅先でも話し込んでしまい、近江の三井寺とフォンテーヌ・ブローで、それぞれ閉門時刻に間に合わなかったというエピソードがあるほどです。(「どこでも源氏物語」トップページの写真はその時のものです。)
 最初に知り合ったイナルコ教員は、豪華フランス語版源氏物語『Le Dit du Genji』を編集された、美術史のエステル・レジェリー=ボエールさんでした。お茶の水女子大学国際日本学シンポジウム(2008年7月)のパネリストとしてお会いしたとき、彼女が私の論文「版本『絵入源氏物語』の挿絵と和歌表現」を読んでくださっていて、開口一番「先生にお会いしたかったんです」と言われました。エステルさんは世界各地の多数の源氏絵を調査し苦労して編集し、私もちょうど同じ時期に千年紀展の数多くの展示作品の場面解説を書いていましたので、すぐに意気投合しました。数年に一度しか会えませんが、源氏絵の研究について深く語り合います。かつて私は、石山寺の一室で、エステルさんに「絵入源氏物語」の原本を見せてどの版が良質かアドバイスしたのですが、その後、イナルコでも原本を購入したそうです。このHPで紹介している「絵入源氏物語」は、フランスでも大切な資料として用いられているのです。
 これまで私は国内だけで研究してきましたが、異国でも著書や論文を読んで下さる研究者がいたのですから、私の本も「どこでもドア」の役割をちゃんと果たしてくれていたのだと思います。パリと奈良とで遠く離れていても、お互いの研究を知り、時に研究について語り合えることは、本当にありがたいことです。フランスで日本文化が評価されていることは知られていますが、パリの最高学府でも源氏物語の研究について活発な議論が交わされました。本の編集会議、討論の打ち合わせを含めて、4日間のパリでの共同研究は、とても有意義なものでした。このパリ国際シンポジウムや研究の詳細については、来年、青簡舎から刊行予定の論集『詩歌が語る源氏物語』(仮称)をご期待下さい。私の発表は、『源氏物語の巻名と和歌』を基にしていますので、ご一読いただければ幸いです。


参考図書
  ・寺田澄江・高田祐彦・藤原克己編『源氏物語の透明さと不透明さ 場面・和歌・語り・時間の分析を通して』(青簡舎、2008年)
  ・寺田澄江・小嶋菜穂子・土方洋一編『物語の言語 時代を超えて』(青簡舎、2011年)
  ・『Le Dit du Genji』三巻(ディアンヌ・ドゥ・セリエ社、2007年)
  ・『世界の源氏物語』(ランダムハウス講談社、2008年)
  ・「版本『絵入源氏物語』の挿絵と和歌表現」(2001年、新典社『源氏物語絵巻とその周辺』、後に『源氏物語版本の研究』に所収)
  ・『源氏物語千年紀展』図録(京都文化博物館、2008年)

1パリ・シンポジウムによる論集2冊
  2ポスター2014版
 21日は、パリ・ディドロ大学、22日は、イナルコを会場として開催されました。イタリア・カナダ・フランス・日本から参集した研究者9名の研究発表と活発な討論ディスカッサンを行いました。
  3世界の源氏物語
 2008年の源氏物語千年紀特集記事の中に、豪華版『Le Dit du Genji』についてセリエ社長とエステルさんのインタビュー、翻訳グループのインタビューが、写真入りで詳しく紹介されています。
〈補足〉
 ポスターと論集に掲載された絵は、和泉市久保惣美術館蔵『源氏物語手鑑』です。物語本文から抜き出した詞書と絵をアルバム形式に仕立てた画帖の一つです。絵は、落款「土佐久翌」から、絵師・土佐光吉の自筆とされています。詳細は『和泉市久保惣美術館 源氏物語手鑑研究』(1992年)をご覧下さい。ポスターの絵は紅梅巻で、私の発表「源氏物語の巻名と和歌―歌から物語へ―」でも取り上げました。