1「源氏物語千年紀展」チラシ外面
 右側中段には、特別講座の案内が掲載されています。片桐洋一委員長はじめ、名児耶明、清水婦久子、野口剛、藤本幸一、横山和弘、四辻秀紀、市川彰、中井和子が、それぞれ講座を行いました。6月7日の中古文学会関西部会シンポジウム「大島本源氏物語の再検討」の告知もあります。 
「源氏物語千年紀展」チラシ内面
 豪華なチラシです。右下は土佐光起の若紫図で、この場面について夜中の3時に野口剛さんとメールのやりとりをして、山吹の童女が紫の上だと答えましたら、朝にはHPにその解説がアップされました。左下の本は、鞍馬寺所蔵の「絵入源氏物語」の無刊記小本で、与謝野晶子の愛読書です。晶子は『湖月抄』より「絵入源氏」を評価していました。
「読む 見る 遊ぶ 源氏物語の世界」展チラシ
 浮世絵に強い影響を与えたのが、源氏物語のパロディ『偐紫田舎源氏』の絵です。江戸で『源氏』と言えばこの作品を示すほどで、原作で描かれた和歌の教養が江戸時代では華道に変化しています。左の図では、遊女(花魁)が源氏物語を読んでいます。遊女までもが源氏物語を読んでいたと説明されますが、実のところ、高級な遊女は、権力・財力のある男性と話をするために源氏物語で学んでいたのです。
  
4「源氏物語千年紀展」図録(右)
 表紙の絵は、大和文華館所蔵の源氏物語絵詞・浮舟帖(図版番号68)の部分です。鎌倉時代の名品で、墨だけで描かれた「白描画」です。恩師の玉上琢彌先生は、同じ白描画の別の場面を角川『源氏物語評釈』の箱に使用なさり、とても気に入ってらっしゃいました。大和文華館は、帝塚山大学学園前キャンパスから徒歩5分にあります。
1)二つの源氏物語展
 「源氏物語千年紀」の2008年、京都文化博物館の「源氏物語千年紀展」と「読む 見る 遊ぶ 源氏物語の世界」展において、私は企画・展示構成と図録の編集に深く関わりました。
 春4月~6月に開催された「源氏物語千年紀展」は、2006年から何度も企画委員会をして準備していましたが、2008年4月末に開催される数ヶ月前になると、担当の学芸員と私は徹夜続きで原稿執筆と打ち合わせに追われました。解説原稿が音声ガイドに使用されるための手直しも必要でしたし、「源氏物語千年紀展」特設サイトの内容について夜中にメールのやりとりをしました。秋の「読む 見る 遊ぶ 源氏物語の世界」展は、早稲田大学名誉教授の中野幸一先生の九曜文庫の所蔵品を中心として、近世の源氏物語文化を紹介しました。準備期間が数ヶ月しかなく予算も少ない中、博物館閉館後に何時間も打ち合わせたり、自宅近くに担当の学芸員が訪ねてきて図録の編集作業したりといった毎日でした。春秋どちらの展示でも、担当の学芸員は睡眠時間も食事時間も惜しんで働いていましたから、私もなんとか良い展示・図録にしたいと励まし合ってがんばりました。そんな苦労よりも、貴重な資料の数々を拝見できたこと、源氏物語の魅力を多くの方々に伝える仕事をさせていただけることが私には大きな喜びでした。
 「源氏物語千年紀展」の企画委員会で意見が一致したことは、千年前の源氏物語を伝えるだけでなく、千年間の源氏文化を伝えようということでした。初めは「源氏物語大展」という仮称でしたが、「源氏物語千年紀展」としました。千年紀という名を源氏物語が作られてから千年と理解した人も多かったのですが、私たち企画委員は源氏物語が千年もの間ずっと忘れられることなく受け継がれてきたことを、目に見える形で示すべきだと考え、絵画作品はもちろん、古写本から版本や浮世絵、漫画まで幅広く、そして詳しくわかりやすく紹介することに努めました。
 特に意識したのは、絵画作品の解説に、源氏物語の場面を詳しく説明することでした。五十四帖の名場面を描いた源氏物語図屛風を一場面ずつ細かい場面解説を付け、図録の24ページに渡って解説し、源氏物語の名場面集にしました9京都で源氏物語。この企画は、委員長の片桐先生も評価してくださり、学芸員の野口剛さんは、この拙稿を手元に置いて展示構成や図録の編集作業をして下さいました。文化博物館がもっと大きい館なら、この画面解説をパネル展示できたのですが、残念ながら図録のみの掲載に終わりました。それでも、2年後に滋賀県立美術館で開催された「出光美術館展」では、出光美術館蔵・伝土佐光吉の源氏物語図屛風に付けた解説頁をカラーコピーして使用したいとの依頼があり、資料として展示室に置くことを承諾しました。入場者がこの資料を手にとってご覧になっていたのを見て、お役に立てたのだと嬉しく思いました。
 さて、「千年紀展」図録の目次を一読いただいた方は、私の名が多いことにお気づきになったと思います。総論の「源氏物語の千年」、コラム「源氏物語の巻名」「五十四帖屏風の中の源氏物語」「源氏物語の女性観―雨夜の品定め―」「源氏物語と和歌・引歌」「六条院の女君たち」「版本の本文と挿絵」、巻末の「名場面鑑賞」「源氏物語和歌(抄)」、そして版本など多くの図版解説を担当しました。展示図録の原稿は、専任学芸員が分担するか、一部を外部の研究者に依頼するのが通例ですが、今回のように外部企画委員が大半を執筆する例は(小規模の展示ならともかく)これだけ大規模の特別展では少ないように思います。残念ながら図録は絶版になり一般に入手できなくなってしまいました。後にこの図録を見た方が何とか入手できないかと懇願して来られた例もありました。ところが本学の学生は、学外実習で「千年紀展」を実見したあと、この図録をテキストとして私の科目を受講していたのです。もちろん私が格安で入手し頒布し得たからなのですが。
 「千年紀展」の総論については、最初の計画では、瀬戸内寂聴さんの巻頭言4ページ、片桐委員長の総論8ページ、私の総論8ページと割り振りましたが、片桐先生が6ページでよいと言われ、締め切り間際に寂聴さんは巻頭言を4ページも書けないと言われ、最終的に私は12ページの紙幅をいただきました。展示構成と図録編集を担当した立場から、作品を具体例として挙げながら、千年間の源氏物語を概観する総論「源氏物語の千年」を書きました。その内容を単なる概説と受け止めた新聞記者もいましたが、実は私の研究に基づく新説を多く含んでいます。その一つは、一条天皇が源氏物語に惹かれて藤原彰子のもとにお通いになった、という冒頭部分で、これは私が絵合巻の記述から想定したオリジナルの説明です。さすがに片桐委員長は「新見が多い」と評価してくださいましたが、同じ説明を以後他の方の講演などでも耳にするようになったのには驚きました。2010年に『源氏物語の真相』に書き、2012年には「BS歴史館」で話したことから、さらに巷に広まったかと思います。その説の根拠については、『源氏物語の巻名と和歌―物語生成論へ―』において詳しく書きましたのでご参照下さい。

参考文献
 ・『源氏物語千年紀展』(京都文化博物館、2008年)
 ・『読む 見る 遊ぶ 源氏物語の世界』(京都文化博物館、2008年)
 ・『源氏物語の真相』(角川選書、2010年)
 ・『源氏物語の巻名と和歌―物語生成論へ―』(和泉書院、2014年)