1帝塚山大学蔵「光源氏系図」 
 WikiPediaなどでは「帝塚山大学本源氏物語系図」と称していますが、この系図には、内題「光源氏系図」が記されています。この本を最初に紹介した初出論文でも、後に出した影印本でも「光源氏系図」としています。これが正式名称です。

『帝塚山短期大学蔵「光源氏系図」影印と翻刻』の広告より
 藤原為家・為氏両卿自筆の系図を書写校合したという奥書のある源氏物語系図の影印。最古の源氏物語古系図として知られる九条家本源氏物語古系図に近似する。損傷部分の多い九条家本の不明な箇所を補い、鎌倉時代の源氏物語享受や為氏本系統の源氏物語古系図祖本の有様などを想定し得る貴重な資料。巻末には、全文の活字翻刻と九条家本などによる本文校異を記し、詳しい解説を加えた。
〈所蔵者について〉
 現在の所蔵は帝塚山大学ですが、もとは帝塚山短期大学の所蔵でした。20数年前、帝塚山短期大学の文芸学科日本文芸専攻において購入し、図書館に管理保管を委託していました。2000年、短期大学は帝塚山大学短期大学部になり、2004年には短期大学部が廃止され、日本文芸専攻は、帝塚山大学人文科学部日本文化学科に統合されました。その結果、本系図をはじめ、短期大学文芸学科で購入し所蔵していたすべての資料が、帝塚山大学図書館および日本文化学科資料室に移管されることとなり、この系図もまた帝塚山大学所蔵になりました。
〈帝塚山短大本「光源氏系図」の特徴〉
1.常磐井和子氏が『源氏物語古系図の研究』で紹介した秋香台本源氏物語古系図と同様に書写年代は17世紀頃だが、本の形態は古系図の基本である巻子本である。
2.系図の組織・本文は、最古の古系図とされる九条家本系統の特徴を備え、表記の仕方も九条家本に一致する。
3.奥書に、(藤原定家の子と孫)為家・為氏の自筆の御系図を校合したという、九条家本系統の祖本を想定させる記述がある。
4.序文や題など、内容的にも伝為定本系図や伝為氏本系図と一致することから、それらの祖本に深く関わっていた可能性がある。
〈系図所載の人物数〉
 九条家本(欠巻)117 =完本であれば秋香台本と同じ
 秋香台本133=帝塚山短期大学本
 伝為定本(九条家本系統)141
 伝為氏本177
 正嘉本等(増補本系統)200以上
〈資料的価値〉
1.帝塚山短大本と九条家本には、他の系図にはない朱書きの合点「
」が共通して記されており、その一致は、同じ人物の手になるか、同じ本で校訂した結果と思われる。 二本の間に何らかの接点があったと考えられる。
2.帝塚山短大本の奥書には「為家卿為氏卿御自筆之系図」を書写校合し覈(くら)べたとあるから、この合点が奥書を記した筆者自身によるものなら、為家本と為氏本の校合に関わっている可能性もある。
3.九条家本と帝塚山短大本との親近性は、振り仮名や左注など小文字の書き入れにも認められる。
4.本文の右側に書き入れられた訂正のための墨書き・朱書きが、全て九条家本・秋香台本の本文に一致している。

以上によって、帝塚山短大本は、最古の源氏物語古系図とされる九条家本に直接関わりのあった本によって校訂されたものと考えられます。この特徴から、九条家本もまた、為家本か為氏本であった可能性が生じるのです。(次頁へ続く
 参考文献
  • 『帝塚山短期大学蔵「光源氏系図」影印と翻刻』(和泉書院、1994年)
  • 拙稿「資料紹介 帝塚山短期大学所蔵『光源氏系図』」(「青須我波良」44号、1992年)
  • 常磐井和子『源氏物語古系図の研究』(笠間書院、1973年)
  • 池田亀鑑『源氏物語大成 巻七 研究資料篇』(中央公論社、1956年)
  • 東海大学桃園文庫影印叢刊『源氏物語宿木・源氏物語系図』(東海大学出版会、1991年)
1帝塚山大学蔵『光源氏系図』
 古系図として完全な構成を誇る写本です。写真右半分の巻頭に、序文「源氏物語のおこり」があり、本文は伝為氏本系図と一致します。序文に続く写真中央には、「光源氏系図」の題があり、その左から系図本文。冒頭には、「太上天皇」(桐壺帝)、次に「朱雀院」と、身分の上位から記されています。
   2「光源氏系図」部分
 光源氏の最終位「六条院」の記載部分。九条家本は、この前まで欠けており、後半から九条家本の本文・合点まで一致しています。源氏系図は、血縁関係を線で結ぶだけでなく、人物の詳しい解説を記すところが特徴で、平安時代の源氏物語の内容が推測できる貴重な資料です。
  3「光源氏系図」
 九条家本は損傷著しく、秋香台本は冊子本であるのに対して、本系図は、由緒ある巻子本で、天地30.5センチ×幅956センチ。表紙は紺地、外題はありません。表紙見返しには、金地に金銀箔が施されています。(図は部分)
  4『帝塚山短期大学蔵「光源氏系図」影印と翻刻』
 本系図を80%に縮小して写真掲載し、活字翻刻と、他の古系図との校異も記載、巻末には20ページに及ぶ詳しい解説を付けました。一つの系図に対してこれほど詳しい解説は他に見当たらず、源氏物語古系図の手引き書にもなります。
〈補足〉
 4の解説では、源氏物語古系図とは何かを説明した上で、この系図の書誌的な特徴、本文の特徴、そして他の古系図との比較を、本文を引用しながら具体的に説明しました。その結果、『源氏物語大成』の九条家本や為氏本の翻刻の誤りなど、活字本だけの比較ではわからない事実も明らかになりました。
 短大の宣伝効果を優先して「帝塚山短期大学蔵」と題したため、単なる資料紹介本に見えるのですが、これは、源氏物語古系図の本格的な研究書です。ぜひ図書館などで資料としてご利用下さい。
解説の目次
 一、源氏物語古系図について
 二、帝塚山短期大学蔵『光源氏系図』の概略
 三、九条家本・秋香台本との近似
 四、帝塚山短大本の特徴
 五、為氏本系統との関係
 六、異文の相互関係
 七、むすび