1山本春正編「絵入源氏物語」
 本サイトでたびたび紹介しているのが、この「絵入源氏物語」の挿絵です。「源氏物語千年紀展」では、各巻の見開き頁を掲載しましたが、秋の「読む 見る 遊ぶ 源氏物語の世界」展では、上の写真を掲載。いずれも架蔵本を撮影・展示したものです。
2「絵入源氏物語」
 表紙は紺色が一般的ですが、架蔵本だけでもこれだけ種類があります。B5サイズより少し大きい「大本」で、巻毎に一冊ずつ、題箋には巻名が記されていますが、書名「源氏物語」はありません。
 
 
3活字版「絵入源氏」
 4のCD-ROM以前、「絵入源氏」の本文を初めて活字翻刻したテキストです。脚注には、付録の『源氏目案』『源氏引歌』から注釈と引歌を引用して掲載し、写本と版本諸本の本文異同を示しました。表紙デザインは挿絵をネガ反転させたものです。
 
4「源氏物語(絵入)」
 国文学研究資料館の原本テキストデータベース古典コレクション。「絵入源氏」をテキスト化し検索可能に。別巻付録の『源氏目案』と『源氏引歌』は架蔵本を使用し、本文とリンクさせています。
5「絵入源氏」小本
 「絵入源氏」には、他に2種の版型の異版があります。そのうち横型で枕本とも呼ばれる万治3年(1660)版と、右図の文庫本サイズ小本(寛文頃1670無刊記)です。小本は与謝野晶子の愛読書で、鞍馬寺蔵の本と同じものです。
〈補足〉
 吉田幸一氏の『絵入本源氏物語考』は、源氏物語の絵本の成立・書誌・挿絵そして魅力を存分に論じた名著ですが、慶安本「絵入源氏」の成立については、その根拠とされた本が別の本との取り合わせ本と判明したので再検討した結果、初版は慶安三年跋文のみがあり刊記のない版であり、承応三年八尾勘兵衛の刊記のある版は再版であることを実証しました。5の異版についても、内容の杜撰さ・編集方針の違いが明らかで、春正の跋文が削除されていることから、別人の手になる海賊版(当時は著作権・版権などなかった)と認定しました。
2山本春正編「絵入源氏物語」 
 まず、2008年に京都文化博物館で開催された「源氏物語千年紀展」の展示図録の図版解説(拙稿による)を紹介します。
 102絵入り版本 源氏物語 六十冊のうち
  (各)縦二七・三 横一九・三 紙本木版
  江戸時代、慶安三年(一六五〇)跋
全文に挿絵があることから「絵入源氏物語」と称される。本文に初めて解釈を経た読点・濁点・振り仮名・傍注が付けられ、五十四巻に二二六図の挿絵がある。慶安三年、歌人で蒔絵師の山本春正が松永貞徳の指導によって編集した。注釈や引歌一覧も備えた最初の版本である。古来の専門絵師による源氏絵の影響を受けながらも、独自の解釈で描いたと思われる挿絵も多い。
初版は無刊記で慶安三、四年に出版、承応三年(一六五四)版は再版で、後に京都の本屋十哲とされる八尾勘兵衛から市販された。他に出雲寺和泉掾版などもあり、五十年以上にわたり再版・増刷が繰り返され、庶民に源氏物語を普及した功績は大きい。後に万治三年(一六六〇)横本と寛文頃の小本(図版120)という二種の「絵入源氏」が出されるが、これらは春正と関わりのない人物が慶安本を模写したもの。『首書源氏物語』(図版104)の本文は万治本、『湖月抄』(図版105)は慶安本を基にしている。
別冊付録として、『源氏目案(めやす)』三冊、『源氏系図』、『源氏引歌』、『山路の露』が添えられた。『源氏目案』は、物語中のことばをいろは順に配列して簡単に説明した辞書的注釈書。『源氏引歌』はこの書特有のもので、古来の注釈書に記された引歌の出典を独自に調べて一覧してある。その和歌本文と出典名は、春正が編纂した寛文六年(一六六六)『古今類句』に一致するから、『源氏引歌』も春正自身の編集と推定される。『山路の露』(図版116)は後述。(S)
※Sは清水です
 「源氏物語千年紀展」図録206頁の全面に、若紫・紅葉賀・須磨三巻、源氏目案、源氏系図、源氏引歌の見開き6図を掲載しました。博物館・美術館の展示において、近世の版本をこれだけ大きく紹介したのは初めてでしょう。97~117まで、古活字版3種と江戸時代に普及した各種木版本を詳しい解説(これも拙稿)を添えて紹介しました。このうち「絵入源氏物語」は、従来は絵入り本というだけで資料的価値が認められてこなかったのですが、活字版『絵入源氏』や『源氏物語版本の研究』において書誌および本文の検証をし、この本が『湖月抄』や『首書源氏物語』など近世・近代に普及した「流布本」の基になった本であることを実証しました。近年では美術史の研究者も、この本の挿絵に注目するようになりましたが、本文研究においても、きわめて重要な本なのです。先の「資料紹介」において、書誌的研究と文学研究の両方が必要だと述べたのは、各種版本を書誌的に研究し、「絵入源氏」の本文で源氏物語を読むことによって、さまざまな発見があったからです。夕顔巻の読みも、「絵入源氏」をきっかけとして解明したものでした。
 「絵入源氏」には、編者・山本春正が描いた226図もの挿絵があります。専門絵師による絵の影響のほかに、注釈書や本文読解から生まれたと思われる独自の図もあります。版本の絵だから程度が低いわけではなく、物語本文に即した、本文を読むための挿絵なのです。現代の漫画やライトノベルのようなものと考えるとわかりやすいでしょう。
 国語教科書や活字テキストでは必ず付けられている句読点・濁点、主語や誰の会話かといった注を初めて付けたのも「絵入源氏」です。注釈付きテキストとしては『湖月抄』が有名ですが、それより20年以上前に「絵入源氏」が注釈を別冊として添えて60冊揃いで出版されていたのです。これは画期的なことです。この本については、今後も少しずつご紹介します。

参考文献
 ・『源氏物語版本の研究』(和泉書院、2003年)
 ・『源氏物語千年紀展』(京都文化博物館、2008年)
 ・『読む 見る 遊ぶ 源氏物語の世界』(京都文化博物館、2008年)
 ・『絵入源氏 桐壺巻』(桜楓社、1993年)
 ・『絵入源氏 夕顔巻』(おうふう、1995年)
 ・『絵入源氏 若紫巻』(おうふう、2003年)
 ・CD-ROM『源氏物語(絵入)[承応版本]』(岩波書店、1999年)
 ・吉田幸一『絵入本源氏物語考』(青裳堂書店、1987年)